建築設計のためのエクセル入門

建築設計のためのエクセル入門

Microsoft Excel(以下エクセル)は、「表計算ソフト」の代表的存在で昔から「三種の神器(ワープロ・表計算・データベース)」の一つとしてビジネスでは欠かせない存在です。ただし会社で教わったり、業務の一環で使わない限り、「使わなくても支障はない」存在であるのは確か。でも一度使ってみて、その能力を実感すると手放せなくなります。
「建築確認のためのエクセル入門」では、エクセルの簡単な使い方を、建築関連の簡単な計算を実例に解説していきます。
※この入門ではMicrosoftExcel2000を使って解説していきます。旧バージョン(Excel95以降)でもほぼ問題ない内容になっています。ただし画面・コマンド等一部異なる部分があります。2003年執筆したものをそのまま掲載しています。著作者の許諾を得て再掲載しています。


第1回 エクセルを使ってみよう。

エクセルの画面の説明、基本的な使い方

<エクセルの画面と用語>
エクセルの画面の特徴は、アルファベットから構成される横軸と数字で構成される縦軸のXY軸からなります。

シート
縦横の罫線が引かれた集計用紙のようなもの。一般にワークシートと呼ばれている。
ブック
複数のシートのまとまり。通常ブック=ファイルです。
セル
縦横の罫線で仕切られたマス目。
数式バー(下図①)
ワークシートの上部にあるマス。アクティブセル(選択されているセル通常黒枠で表示される)のデータや数式を表示します
名前ボックス(下図②)
ワークシートの位置を「C5」のように表示します。

エクセルの画面

MicrosoftExcel - Book1 _ ×
ファイル(F)編集(E)表示(V) _ ×
C1 ×
A B C D E F G H I J K L
1
2
3
4
Sheet1 Sheet2
コマンド
スタート

<ワークシートとセル>

A B C D
1
2
3
4

上表で、①の位置を「C1」、②の位置を「D4」と読みます。位置の読み方はエクセルの基本となりますので、すぐに覚えてください。
表自体のことを「ワークシート」といいます。先ほどの「C1」とか「D4」とかをセルといいます。ワークシートは一つのファイルに複数作ることができ、名前を付けられます。ですから、位置を指定するときは「ワークシートSheet1のセルC1」のように指定します。

<文字を入力してみよう>

エクセルで文字を入力する場合、入力したいセルにカーソル(黒い枠)を移動します。マウスでもカーソルキーでも移動できます。移動したら入力したい文字を入力しましょう。
セルの文字を上書きしたい場合、消さなくてもそのまま入力すると、前に入力された内容が消されて、新しく入力した文字が入力されます。
セルの文字を修正する場合は、セルをダブルクリックして編集モードにします。「F2」キーでも編集モードになります。慣れるとマウスを使うより「F2」キーを使ったほうが快適です。

エクセルは「表計算ソフト」です。ですから本来の使い方は文字を入力することではなく、計算するためにあるものです。では数式の書き方はどうすればよいのでしょうか?
答えは、「=」(イコール)のあとに、数式を入力するのです。具体的には

「=1+1」・・・①
「=5-2」・・・②

といった感じです。文字を入力するのと同様に任意のセルに入力して見ましょう。①を入力すると、セルには「2」、②を入力するとセルには「3」が表示されるはずです。このとき、数式を確認するには、ワークシートの上部にある「数式バー(前ページ参照)」を見れば、入力した数式が確認できると思います。
このように、エクセルのセルには、入力した文字がそのまま表示されない事があります。数式が入っている場合は、その計算結果が表示され数式は数式バーに表示されます。

数式の訂正も、文字の時と同じです。セルの表示が計算結果であってもマウスでダブルクリックすれば、数式の状態で表示されます。いろいろと変更してみて感じをつかんでみるといいと思います。

文字が自由に入れられるようになったら、セルの大きさを変えてみましょう。
エクセルを起動したとき、セルは等間隔に並んでいますね。エクセルは、このセルの大きさを自由に変更することができます。大きさを変えるには、灰色のA~や1~といった番号の間にある線をマウスでドラッグします。口で表すのは難しいのですが、やってみると簡単です。

今回はちょっとだけエクセルの操作をかじってみましたが、いかがでしょうか?次回からは建築業で使っている計算を例にとって実践的な練習に入っていきたいと思います。


第2回 エクセルで建ぺい率を計算してみましょう。

前回、簡単な入力方法を解説しました。もう文字、数式の入力は大丈夫でしょうか?
今回からはさっそく実践に入ります。今回は建ぺい率の算出です。建ぺい率は敷地の中にどれくらいの面積の建物が建つか?といった比率です。

建ぺい率の算出

確認申請をされる方々の基本の基本、建ぺい率の算出の計算式は

建ぺい率=建築面積÷敷地面積

です。これをエクセル上で表現するとどうなるでしょうか?初めての方はさっさと次のページの解説をみてみましょう。多少「わかる」方は、ワークシートに入力してみましょう。

 

 

解答例と解説

<解答例>

A B
1 建築面積 (入力)
2 敷地面積 (入力)
3 建ぺい率 =B1/B2

簡単に書くと、上記のようになります。A1~A3は文字をそのまま入力します。B1からB2は実際数値を入力しますので今は空けておいてください。最後にB4の数式を入力します。
B3の式(赤で塗ってあるセル)を日本語で説明すると

「B1の数値をB2の数値で割り算した結果をB3(入力セル)に表示します。」

エクセルの基本はセルの位置を指定して演算子(+とか-とか)で数式を入力することです。通常の計算では足し算は「+」引き算は「-」掛け算は「×」割り算は「÷」ですが、エクセルの場合足し算引き算は通常と同じだが、掛け算は「*」割り算は「/」で表現します。パソコンを普段から計算で使っている方にはおなじみの記号ですが、計算をされない方は戸惑うと思います。エクセルを使う上では基本的なことになりますので、是非覚えてみてください。
さて、今回の例題を使って、実際に建ぺい率を算出してみましょう。
B1に40
B2に50
を入力してみましょう。そうするとB3に「0.8」と表示されます。通常建ぺい率は、%で表記されますので、80%ということになります。もし建ぺい率を%で表記したい場合は数式を

=B1/B2*100

とすればOKです。

今回の例題は難しかったでしょうか?
「なんだ、そんなことしかできないのか!」と思わないでください。B1からB2までは、自由に変更できますので、建ぺい率ぎりぎりまで建築面積を増やしたいときなど効果を発揮します。次回の容積率の計算では少々レベルアップします。お楽しみに!

<今回のおさらい>

セルの位置の表現は大丈夫ですか?
掛け算と割り算の記号を覚えましたか?


第3回 エクセルで容積率を計算してみましょう

前回まで計算式の入力を解説しました。今回は容積率の算式を利用してもう少し高度な計算を行なってみます。
容積率とは、「延べ面積の敷地面積に対する割合」です。延べ面積とは各階の床面積の合計のことです。ただし、建物内にある車庫で、その階の床面積の1/5以内の車庫は不算入であったり、住宅床面積の1/3以内の住宅地階は不算入であったりと多少、面倒な部分も存在します。今回はそういった不算入の部分をまとめて「不算入面積」とし、算出することとします。3階建ての住宅で車庫がある場合の計算式は

((1階床面積+2階床面積+3階床面積)-不算入面積)÷敷地面積

ということになります。ではちょっとだけ考えてエクセルに数式を入力してみましょう。

 

解答例と解説

<解答例>

A B C D
1 敷地面積 (入力)
2 1階面積 (入力)
3 2階面積 (入力)
4 3階面積 (入力)
5 不算入面積 (入力)
6 延べ面積 =B2+B3+B4-B5
7 容積率 =B6/B1

うまく、入力できましたか?今回は延べ面積を別個に作成しました。もし、延べ面積がいらないのなら、ダイレクトに

=(B2+B3+B4-B5)/B1・・・①

とすればよいでしょう。ポイントは足し算引き算は、掛け算割り算より計算の優先順位が後なので、先に計算する場合は、(かっこ)でくくる必要がある点です。

足し算の数が多くなると入力が面倒ですね。特に今回のようにB2からB4といったように連続している場合は、「何かいい方法がないの!」と思ってしまうでしょう。
そんな場合は、SUM関数を使います。意味はとにかく①式を

=(SUM(B2:B4)-B5)/B1・・・②

と書き換えてみてください。どうでしょう?同じ結果になりましたね。SUMとは、あるセルからあるセルまでの範囲を合計する関数なのです。
エクセルでは、足し算や引き算のほかに、関数といっていろんな計算に役立つ計算式を備えています。SUMもその一つで、関数の中で一番ポピュラーなものです。今回はSUMを覚え、次回に他の関数を学ぶことにしましょう。書式は

SUM(計算を開始するセル:終了セル)

です。A1からA5を合計する場合は
=SUM(A1:A5)
のように、開始、終了のあいだを「:」(コロン)をいれます。

もし、A1からA5とB2からB4といったように2つの範囲を合計したい場合は、「,」(コロン)で区切ります。
=SUM(A1:A5,B2:B4)

計算式が長くなりそうなときに威力を発揮します。ちなみにエクセルではアイコンの「Σ」がSUM関数になっています(オートサムという)。これを使うとワンタッチで計算できるようになります。大変便利なので一度お試しあれ。

<今回のおさらい>

足し算引き算と掛け算割り算が、複合した式の計算順序は大丈夫ですか?
SUM関数は使えるようになりましたか?


第4回 エクセルの関数

第3回で解説したSUM関数はマスターできたでしょうか?エクセルにはSUM関数のほかにたくさんの関数があります。今回は、良く使いそうな関数をピックアップして解説します。

端数の、切り上げ、切り捨て、四捨五入

エクセルの計算結果で、小数点以下が長い場合があります(主に割り算)。そんなときはROUND関数を使います。使い方は、

=ROUNDUP(数値,桁数)・・・切り上げ
=ROUNDDOWN(数値,桁数)・・・切り捨て
=ROUND(数値,桁数)・・・四捨五入

です。具体的には

=ROUNDUP(5.744,2)

と入力すると、小数第3位を切り上げて、5.75を返します。

=ROUND(A1,3)

と入力すると、A1のセルの数値の小数第4位を四捨五入して表示します。ちなみに

=ROUNDDOWN(9864,-3)

と入力すると、9000を返します。つまり、-33桁目という意味になります。

今日の日付を表示するには

エクセルで領収書を発行したい場合、いちいち今日の日付を入力するのは面倒ですね。そんなときは、迷わずTODAY関数を使いましょう。

=TODAY()

これだけで、当日の日付を返してくれます。次の日になったら次の日付に自動的に変わります。

SIN・COS・TAN

当然SIN・COS・TANもできます。使い方は

=SIN(数値)
=COS(数値
=TAN(数値

これだけ、数値が求まります。もしSINの小数第2位を四捨五入して数値を求めたい場合は

=ROUND(SIN(数値),3)

とします。関数は数式ですので、このように複合することもできるのです。

条件によって、異なる結果を返すには

よく、「3以上だったらOKだけど、3未満だったらNGよ」といったように、条件によって結果が変わってくる(表現が難しい)ことを表現したいことがあります。そんなときは、IF関数を利用しましょう。

=IF(論理式,真の場合の結果,偽の場合の結果)

具体的な例では、

=IF(X1=0,10,5)

これは、セルX1の数値が0ならば10を返します。異なるなら5を返します。

=IF(X2>0,”OK”,”NO”)

これは、セルX2の数値が0よりも大きい場合、OKを返します。それ以外なら、NOを返します。この例のように文字列を返す場合は“”で囲う必要があります。

=IF(X1<2,”可”,IF(X1<4,”良”,”優”))

これは、X1が2未満なら可を返し、4未満なら良を返しそれ以外なら優を返します。成績表とか作る場合に有効かと思います。同じ関数もルールどおり記述すれば複数利用することが出来ます。この式は表現を変えて同じ結果を導くこともできます。理解を深めるために不等式を逆にしたりしてチャレンジしてみてください。

平均値を求めたい場合

平均値を求めるには

=AVERAGE(数値1,数値2,・・・・)

です。

=AVERAGE(5,7)

5と7の平均値という意味ですので6が表示されます。もちろん

=AVERAGE(A1,B1)

はセルA1とセルB1の数値の平均値を返します。

=AVERAGE(A1:A5)

は、A1からA5までのセルの数値の平均です。「:」は、の意味だと思ってください。

なんとなく、関数の使い方が理解できるようになったと思います。あとは実践で使えるようになればOKです。関数は他にもたくさんありますので、興味のある方はエクセルの本で勉強してみてください。きっとエクセルの使い方の幅が広がると思います。


第5回 エクセルで平均GLを算定してみましょう。

第5回では、関数の解説だけで終わってしまいましたが、関数とはどういったものかは理解していただけたと思います。今回は初級編の最終回です。平均GLの算定を題材に、ちょっとだけレベルアップした内容にしていきたいと思います。

平均GLとは?

確認申請の時、建物の高さは平均地盤面(平均GL)からの高さになります。平均地盤面は建物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面をいう(建基令第2条第2項)。従って建物周囲の敷地が水平ならば、その敷地表面が平均地盤面になる。しかし、敷地に高低差がある場合は、その平均を取らねばなりません。特に高低差が3mを超えるときは3m以内ごとに分割して測定しますが、今回は高低差3m以内であると仮定して作ってみます。

図1  A(0.0) 10m B(0.6)
5m 5m
D(0.4) 10m C(0.9)

図1は緑色が建物です。広さは10m×5mで、()内の数値はA地点を基準とした高さです(単位はm)。各点間は、なだらかに傾斜していると仮定してます。平均GLを求める式は

平均GL=((A地点の高さ+B地点の高さ)×AB間の長さ
+(B地点の高さ+C地点の高さ)×BC間の長さ
+(C地点の高さ+D地点の高さ)×CD間の長さ
+(D地点の高さ+A地点の高さ)×DA間の長さ))
÷ABCD(外周)の長さ÷2
(8/29以前は上の「÷2」が抜けていました。申し訳ありません)
これをエクセルで表現してみましょう。

エクセルの基本に戻ってやれば簡単ですね。

データを入力する部分と計算結果を表示する部分を、如何に設計するかがポイントです。やり方は複数あるので、自分流にやってみてかまいません。結果が求められればとりあえずOKです。下に解答例を作ってみました。前のページの例題の数字を入れてみて答えがあっているか確認してみてください(修正が元にもどってしまいました。修正しました。S16さんありがとうございます)。

A B C D E F
1 高さ 距離 高さ×距離 平均GL
2 A地点 (高さ)
3 (入力) =(B2+B4)×C3
4 B地点 (高さ)
5 (入力) =(B4+B6)×C5
6 C地点 (高さ)
7 (入力) =(B6+B8)×C7
8 D地点 (高さ)
9 (入力) =(B8+B2)×C9
10 =A2 =B2
11
12 合計 =sum(C2:C9) =sum(D2:D9) =Rounddown(D12/2/C12,3)

もし、Dの高さ×距離が平均高さを表示したい場合は、D欄で1/2してしまった方が表示がスマートです。ただし入力の手間は増えます。

A B C D E F
1 高さ 距離 高さ×距離 平均GL
2 A地点 (高さ)
3 (入力) =(B2+B4)×C3/2
4 B地点 (高さ)
5 (入力) =(B4+B6)×C5/2
6 C地点 (高さ)
7 (入力) =(B6+B8)×C7/2
8 D地点 (高さ)
9 (入力) =(B8+B2)×C9/2
10 =A2 =B2
11
12 合計 =sum(C2:C9) =sum(D2:D9) =Rounddown(D12/C12,3)

いかがでしょうか?きちんと答えはあってますか?各セルの考え方は非常に簡単なのであとは組み合わせとレイアウトの問題です。解答例では数式は簡単です。表現はセルの結合を使って見やすくしています。
セルの結合とは、上のように2つ以上のセルを結合して一つのセルにすることです。今回の場合、点と長さという違う概念が同時に同じ表に出ているため、素直にXY軸で表示すると見づらい可能性があります。そんなときにセルの結合を利用するのも一つのアイデアです。通常、セルの結合は表の体裁を整える場合に使います。
E12の式は、最後に切り捨てをしています。小数点以下がだらだらしているとみっともないので、必要な部分だけ残して切捨てしましょう(例ではミリ単位まで残しています)。

建築業のためのエクセル入門は今回でおしまいです。もし機会があれば、もう少し上級のものを執筆してみたいと思います。